FC2ブログ

大都会全線停車

とうらぶの絵や漫画描きたい

Entries

松山・道後十七文字の殺人(西村京太郎)

実に4年半ぶりの西村京太郎である。
今回クローズアップされるのは、松山と俳句だ。


裏表紙のあらすじで開始1/4ほどはバラされてしまっているのが残念だが、主眼はそこではないのでまあよしとしよう。
前半と後半の一部では、私立探偵の橋本がメインとなって事件解明のために奔走する。十津川警部以外の登場人物にも活躍の場が設けられているのを読むのは、長期シリーズならではの楽しみどころだ。

刑事たちは(先入観に基づいて)次々と論理を組み立てていくが、「神の視点」をもつ読者には、やはり「まだ何かある」「あの情報が活かされていない」という思いから想像を膨らませる余地がある。
事実、本作で不必要な情報だったのは前半に橋本が調査した別の事件だけで、鹿島さとみの件が宙ぶらりんになっていることに疑問を覚えた。
それが事件解決の鍵となるのだが、発端である山下教授の死の真相はあくまで人々の推測の域を出ておらず、十津川たちには苦い記憶を植えつけた。これは、不審死が自殺や事故として片づけられてしまう現実への著者の問題提起でもあるだろう。

最期の保子の句が、(意味合いは違うが)足利義輝の辞世の句を思わせた。
死者の名を運ぶのは青鳥にも喩えられるように鳥が相応しいのだろう。
スポンサーサイト



救世主の条件(中見利男)

キューバ危機に関しては、ほとんど知識がない。
自分が生まれる前であることを差し引きしても、昭和30年生まれの母でさえ「よく覚えていない」と言っていた。
日本人にとっては、第五福竜丸の被曝のほうが大きな関心事だったことだろう。


本文や解説での言及されているように、『ダ・ヴィンチ・コード』が著者の頭のなかにあったことは言うまでもない。
だが、米ソという日本とは遠い世界を描きながら、日本人女性を主軸に据えることで、日本の読者に親近感をわかせている。しかも、彼女は広島の原爆の被曝者でもある。こういった設定は、外国人作家には深く追究できない部分だろう。

21世紀を生きるわれわれ読者は神の視点ゆえに、50年以上前の出来事を客観的に判断できる。
また、小説という特性上、『聖典アストロノミア』が架空の存在であり、そこに記された星も数列も、著者の考えたもの、つまり示される暗号の答は「順序が逆」であることがわかっている。
しかし1962年を生きる登場人物たちにとって、核戦争の危機に脅えながら導き出していく暗号の答は、何よりも「真」なのだ。


最終章では、2011年の単行本発行当時では書かれていなかったであろう事柄が追加されている。
世界で唯一核兵器を投下され、そして震災による原発事故を経験している日本だからこそ、被曝の脅威を世界に向けて発信していかなければならない。


完本 七つの金印(明石散人)

これは、とんでもないものを引いてしまった。
小説の体をなしてはいるが、日本史の造詣が深くない者が読み進めるのは困難だろう。

久しぶりに、自分の脳を日本史モードへと変換することを強いられ、丹念に読んでいった。
日本史のことでこんなにもわくわくするのはいつ以来だろう。大学で専攻して年を経るにつれ忘れてしまった、あの放埓な探究心を思い出させてくれた。


金印といえばまともな日本国民なら誰もが知る、あの金印である。
謎が多いことはなんとなくは知っていたが、主人公・北畠以上に何も知らない状況からスタートした。
本物の金印をめぐる議論については、専攻内ではあるが門外漢の私には判断を下すことはできない。あの金印がどこから来てどのような経緯で現在にいたるのか、この本を鵜呑みにすることは避けねばならず、専門知識を得るには史料や研究書にあたらなければならない。
「漢委奴国王」印のことだけでも知識が足りなかったというのに、冒頭から展開されるのは足利義満の「日本国之王」印にまつわるストーリーであり、読者を混乱させる。


著者の経歴を活かして、歴史をテーマとしたテレビ番組づくりについての論理が述べられているくだりがある。
しかし私はこれに反対したい。たとえば『なんでも鑑定団』のような番組なら、紹介されるものの値打ちについて大々的に取り扱われるのは頷ける。ところが、「発掘を経て日の目を見た」という経緯を差し挟むとなると、その行為は一気に下卑たものとなるのだ。
数年前の正月特番で、テレビ番組が指揮をとって遺跡を発掘し財宝を見つけるというから興味をもって観てみたが、すぐに何億円の価値だの何だのという価値観に置き換えられてしまっていた。挙句の果てには、ツタンカーメン王墓やトロイ遺跡などの過去の大発見についても金銭的価値しか見出していないような番組のスタンスに、甚だ辟易してしまった。
「歴史的価値のあるもの」というのは、研究を主体に置いてこそである。盗掘者も学者も、掘ることによって遺跡を破壊してしまうという極論には頷くしかないが、学者たちが後世に残そうとして記録し研究していることを露ほども顧みられていないのではないか。

アカデミズムに対するアンチテーゼもそうだ。
在野の研究家が評価されないといったシステムはよくないが、明治の学問黎明の頃ならまだしも、今日「大学」という研究機関で正式に教育を受けたか受けていないかでは、はっきりいって「研究に際して踏む手順」を知らない者と評されても仕方がない。
その証左として、「素人」は一次史料を大切にしない傾向にあると思う。どころか、資料と史料を混同している輩さえ見られる。
匿名の人間が書いたWikipediaを見よ。歴史に関する項目の多くは、誰それがいつ何をしたということが詳細に書かれているが、その出典はといえば驚くことに、近年の研究者の研究書である。この現状を無視して在野を評価しろというのは、無理のある注文である。


とまあ、日本史学専攻ゆえに思うところはいくつかあったが、本書が傑作であるのは紛う方なき事実である。

それから(夏目漱石)

漱石、どころか、近代作家の文章をまともに読むのでさえ久しぶりだった。
なので最初は戸惑いはしたが、そこは日本史学専攻として慣らした身、言文一致など馴染むのに時間はかからなかった。


奇しくも、代助とそう変わらない年齢(とし)である。おまけに、つい最近に数カ月の空白期間がある。
働くのはまあ馬鹿らしいと思っているが、金のためには背に腹は代えられない。
「労働者階級」という言葉は今失われており、一部の人間を除けばみな「働かなければならない」身分である。
高等遊民など夢のまた夢、どんなに素晴らしい学歴と頭脳をもっていても、くだらない世事に煩わされなければ生きていかれないのだ。

破綻したわが家ではあるが、金銭面ではまあそこまで劣っているわけではない(と思う)。
親の助けを借りねば生きられない身の上も代助とよく似ている。


だが、代助はそんな身でありながら、倫理に悖り人生を彽り道を踏み外した。
三年前、代助が不可なかったのか、三千代が不可なかったのか。
現在、平岡と三千代の間に子がないのが余計に拍車をかけたのか。

平岡の三千代に対する情は冷めていると云われているが、三千代が倒れたときには彼は心(しん)から心配していただろう。
最後にそんな描写を入れるのは、ずるい。

父にも兄にも友人にも見捨てられ、凡てを喪った代助は、赤い視界とともに歩を進めていく。
躁状態の彼が行く先は危ういものであるし、彼の理想とする生き方は金輪際できなくなったが、それでも彼は社会の歯車に組み込まれたのだ。

若様とロマン(畠中恵)

幻想の明治が、俄かに物騒となった。

明治23(1890)年といえば、日清戦争まであと4年である。……と思うのは、現代を生きる者の驕った視点からなのだろうか。
当該期間を生きていないわれわれには、当時の時勢は残されたものから推して知るしかない。
軍人だって、家族を進んで戦禍に晒したくはなかろう、と反論してみたくはなった。
生憎私には、日清戦争以前に、戦争に対して国民の感情がどうであったか、政府は戦争を避けようとしていたのかというきちんとした知識はない。


さて、戦争を避けるために、小泉家当主が選んだ手段は「謀略」である。
作中でも言及されているとおり戦国武将宛らに、姻戚関係を結ぶことによって味方を増やすという手を講じた。徳川時代に大名同士が私的に結ぶことが禁止されたほどだから、かなりの効力をもつのだろう。
しかし蓋を開けてみれば……。
そのあたりの甘さが、「成金」である当主らしいといえる。

上手くいった縁談にしても、周りの決めつけではなく当人同士が相手をきちんと見定め決めているのがよい。
明治の士族や、女学校に通える家柄のお嬢様たちが主役ではあるが、半分は自由恋愛を描いているのはフィクションならではの強みだろう。


時の流れをよしとするかあしとするか。
沙羅やミナは外国へと旅立ってひと回りもふた回りも成長している。国内に残った者たちも、家庭を築き、自己の研鑽に励んでいる。
だが、二十歳前後の彼らが集ったあの日々はもう二度と戻らないのだ。今度彼らが顔を合わせるときは、確実に時代が進んでいる。それはつまり、日本が戦争へと進んでいく時代のことだ。
後の世を生きるわれわれが見れば苛烈な時代へと差しかかってゆくこのときも、とうの彼らにとっては輝かしい人生の一部なのかもしれない。
明治の後半、大正、そして昭和20年を迎える若様たちは、何を思って生きてゆくのだろうか。

ご案内

プロフィール

如意自在

Author:如意自在
某大都会県在住です。
もう勉強しなくてもいいということに咽び泣く。

本の感想:歴史ものと推理ものがメイン……のはず。
絵:少年漫画(ジャンプ)に感化されたものが多いです。

世界ふしぎ発見!マニア。2002年5月25日以降のデータは保存済み。
オカルトとかも好きです。あの胡散臭さがたまらない。

現在無双OROCHI2(PSP版)をプレイ中。
げんきっき!


以下、好きなもの。
人文科学、自然科学。このへんはストライクゾーンが広いです。

人文科学は本好きなので、そこから得た知識だったり、博物館・美術館に実際に行ったり。
歴史を好きになったきっかけは吉川豊先生の漫画かな?

自然科学のほうも博物館通いとNHKスペシャルの賜物ですね。
『生命』と『地球大進化』は名作。
短いのだと『恐竜vsほ乳類』かな。
物理・化学系は苦手ながらもあさりよしとお先生の著作で頑張って勉強してます。


少年漫画:90年代のジャンプ漫画を中心にそれ以降の作品がメイン。
ベストはるろうに剣心、次点で封神演義。BLEACHとか銀魂とかからもかなり影響受けてますね。
大元を突き詰めればドラゴンボール。かめはめ波の練習はやるよね!?

音楽:浜崎あゆみ、ALI PROJECT、Sound Horizon。
その他アニソン。

小説:司馬遼太郎、京極夏彦あたりがドストライク。
女性作家の文章よりは男性作家の文章のほうが好み。


(ΦωΦ)<猫好きです!
2014122904.jpg


好きなアニメ会社
京アニ、P.A.、A-1、J.C.、I.G、動画工房、SILVER LINKなど。


リアルでは話しかけづらい空気を醸し出しているらしい……ですがそんなことはないので、お気軽にどうぞ!

また思いついたら何か書きます。


最終更新日
2018年3月18日

pixiv

最新記事

Lc.ツリーカテゴリー

カウンター