戦争の起源 石器時代からアレクサンドロスにいたる戦争の古代史(アーサー・フェリル)
そうでなくとも、少なくとも「有」史時代からと考えるのが常であり、まさか石器時代から考証を始める酔狂な人はおるまい……と思っていた。
しかし本書の序盤を彩るのはまさかの旧石器時代の出来事であった。
本文中で述べられているように、彼らが歴史時代の軍隊のように組織立って動いていたという証拠はどこにもない。事前に相談くらいはしていたのかもしれないが、それは狩りの際に獲物を追いこむときの相談と大差なかったものだろう。
そして時代は狩猟定住、農耕の開始と下っていく。
イェリコ遺跡(本書では「エリコ」表記が使われているが、私は「イェリコ」と表記したい)は先史時代愛好者にとって欠くことのできない存在であり、幼年時代の私も知っていた。今回改めてその概要を見ると、城塞都市といっていいほどに堅固なつくりであったことに驚かされた。写真を見たこともあるのに、頭から抜け落ちてしまっていた己に腹が立つ。
近年では先史時代のトルコの遺跡発掘が目覚ましい成果を遂げているが、この本の原著が出版されたのは1985年である。当時、1万年前頃の西アジアにどのような目が向けられていたのかはわからないが、あの地域一帯を引き合いに出す著者は鋭い慧眼の持ち主である(西アジアが文明の揺籃として注目され始めたのはいつごろなのだろう)。
著者は最終的にアレクサンドロスの軍事的才能などを称揚することを本書の着地点としたが、中盤で100ページもの紙幅が割かれているペルシア戦争・ペロポネソス戦争にも私は多大な注目を向けたい。
高校の世界史の授業で習いはするが、ほんの概要にすぎない。もしこのふたつの戦争について理解を深めたいという高校生がいるのなら、迷わず本書を薦めたい。それくらい各戦いの詳細が述べられている。
著者が本書の主人公に据えるアレクサンドロスの遠征(それ以前のフィリッポス2世の功績も含む)に関しても同様で、今まで知識の「点」でしかもっていなかったものが「線」として次々と交わっていく爽快感といったら。
著者はアレクサンドロスの時代からナポレオンの時代までの約2000年間に大きな戦術の変化はなかったと述べている。それほどまでに前者の軍事能力は完成されていたものだといういくつもの論証を重ねてきている。
だが私は日本人という立場から異論を挟みたい。
この極東の島国では、戦国時代の半ばに鉄砲が輸入されて以来、当時世界に類をみないほどの鉄砲大国となった。これにより無敵と評された武田の騎馬隊は駆逐され、野戦にしろ攻城戦(籠城戦)にしろ、戦略を変えざるを得なくなった。
著者のように、アレクサンドロスの兵隊の「火薬武器の威力に対する恐怖心」を度外視したとしても、火縄銃や野戦砲が大いに発達した戦国時代の戦いで同様に振舞えるかどうかは議論する必要があると感じた。
この本を読んで思い浮かんだことがあるので余談をひとつ。
名誉の問題なので個人名は伏せさせていただくが、2011年の「高校生クイズ」準決勝で、「紀元前に行われた戦いをできるだけ多く答えよ」という多答問題が出題された。
トップに躍り出た高校は、解説の大学教授からは「修士レベル」とたいへん褒められていたが、世界史選択の高校生なら当然知っているべきものばかりであり、教科書や用語集に載っていないものはなかったように思う。
今回本書を読み終え、「修士レベルと呼ぶなら受験範囲以上のことも知っていなきゃね」という決意を改めてし、本書に出てくる「○○の戦い」を年代順にまとめておこうと一念発起した。
最後に。
序盤でとりあげられた事項の数々は、私が歴史に興味を持った原点のひとつである吉川豊先生の漫画を想起させた。
以下の5冊を補助書籍として挙げたい。
まんが化石動物記9 げんしじんがあらわれた
まんが人間の歴史3 古代文明のあけぼの
まんが人間の歴史4 文明の光と影
まんが世界ふしぎ物語5 まぼろしの王国トロイア
まんが世界ふしぎ物語6 よみがえる黄金の宝
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